変革は、人が動き、組織の利益につながらなければ意味がありません。

ここでいう「人が動く」とは、号令に従うことではありません。人々が自分の利益に沿って合理的に行動することです。変革が成功したと言えるのは、その行動の積み重ねが、組織の利益にもつながっているときです。利益とは金銭だけではありません。企業のレピュテーション、ブランド価値、株価なども含まれます。

50年前から指摘されている「Aに報いてBを望む愚かさ」

この考え方は新しいものではありません。1975年、経営学者のスティーブン・カーは「On the Folly of Rewarding A, While Hoping for B(Bを望みながらAに報いる愚かさについて)」という論文を発表しました。政治や戦争からビジネス、公共部門まで幅広い事例を取り上げ、組織が掲げる目標と、実際に報いて奨励している行動とが噛み合っていないことが多いというパターンを示したのです。

カーはこう述べています。人は何が報われるのかを探り、報われることを行う(少なくとも、行っているふりをする)。報われない活動は事実上切り捨てられることも多い。彼が挙げた例は今でも通用します。大学は良い教育を望みながら研究業績に報い、スポーツはチームワークを望みながらスター選手を称える。

品質管理の大家W・エドワーズ・デミングも、「悪いシステムは、良い人をいつも打ち負かす」という言葉を残しています。今の仕組みの中でもっと頑張るのではなく、成功が仕組みに組み込まれるようにシステムそのものを変えることに焦点を当てるべきだ、というのがその意味です。

知識を抱え込むのは、その人が悪いからではない

たとえば、個人別の成果主義で評価する制度の下では、自分が身につけた知識やスキルを他者に無償で渡す動機は働きにくくなります。その知識を自分ひとりが持っているほうが、この制度では合理的だからです。

これは推測ではありません。トロント大学などの研究チームは、職場で知識を隠す行為は珍しくなく、軽いものでは機密情報の秘匿、深刻なものではチームメイトが正当に必要とする情報を「知らないふり」で出さないケースまであることを明らかにしました。共著者のデビッド・ツヴァイク准教授は、どの組織もチームの利点を掲げながら、実際には個人の成果で報いていることが多いと指摘しています。

その代償は小さくありません。動画プラットフォームのPanoptoが米国の知識労働者1,000人以上を対象に行った調査では、従業員は週に5.3時間を、同僚からの情報待ちか、既にある組織の知識の作り直しに費やしていました。また、組織の知識の42%が特定の個人にしかないものでした。属人化は、目に見えにくいが確実に積み上がるコストです。

協働を「合理的」にした例:マイクロソフト

一方、知識やスキルをチームや組織に移し、チームワークを高めたことが評価される制度ではどうでしょうか。

マイクロソフトは2013年に評価制度を改めました。自分ひとりの仕事だけでなく、他者の意見やアイデアをどう活かしたか、そして他者の成功にどう貢献したかという3つの要素に焦点を当てるものです。2013年以前の評価は極めて競争的でしたが、新しい仕組みでは、社員は他者をどう助けたかで評価されるため、自分の仕事だけに没頭していられなくなりました。

制度が変われば、「合理的な行動」の中身が変わります。設計次第で、属人化は解消に向かい、組織全体の能力も高まります。

変革の本質は「合理」の向きを揃えること

人は、制度が「合理的」とするほうへ動きます。意識改革や精神論で、制度に逆らう行動を求め続けることはできません。

だからこそ、変革の本質は、個人にとって合理的な行動が、そのまま組織の利益につながるように設計し直すことにあります。

あなたの組織の評価制度は、どんな行動を「合理的」にしているでしょうか。

参考