「部門間の壁を越えて、もっと密に連携しよう」
組織の会議や方針説明で、よく耳にする言葉です。互いに連携することは、もちろん大切です。しかし、この言葉が何度も繰り返されているなら、注意が必要です。
連携を強く呼びかけなければ仕事が進まないということは、日常の仕事の仕組みが、そもそも連携しやすく設計されていない可能性があるからです。
部門間の連携が必要な組織は、顧客価値を届ける一つのチームになっていません。目標や責任を異にする複数の集団が、その都度調整しながら仕事をつないでいる状態です。どれほど熱心に連携しても、やがて組織の壁にぶつかります。
なぜ「もっと連携しよう」が繰り返されるのか
部門間の問題が起きると、コミュニケーション不足が原因だと考えられがちです。そこで、定例会議を増やす、情報共有を徹底する、担当者同士で密に連絡を取るといった対策が行われます。
こうした対策で一時的に問題が解消することはあります。しかし、しばらくすると同じ問題が再び起こります。なぜなら、担当者の努力で症状を抑えても、分断を生む構造は残っているからです。
例えば、営業部門は売上、開発部門は開発効率、運用部門は安定稼働を優先して評価されているとします。それぞれが自部門の目標に忠実に行動するほど、優先順位は衝突します。顧客への価値提供という全体の目的よりも、部門ごとの成果を守ることが合理的な行動になってしまいます。
この状況を「連携する姿勢が足りない」と捉えると、本当の問題を見失います。
善意では越えられない組織の壁
組織の壁は、単に人間関係が良くないために生まれるものではありません。部門ごとに異なる目標、予算、権限、評価制度、意思決定の経路によってつくられます。
担当者同士が良い関係を築き、助け合いたいと考えていても、自部門の目標達成に必要な仕事を後回しにして、他部門を支援し続けることは困難です。連携するほど自分の評価が下がる仕組みであれば、善意だけに頼ることはできません。
また、問題を解決するために部門を越えた判断が必要になれば、担当者はそれぞれの上司へ確認を取り、さらに上位の会議で調整しなければなりません。現場が連携に前向きでも、権限の境界を越えるたびに仕事は止まります。
「もっと密に連携しよう」という呼びかけは、ときに、構造上の問題を個人の努力で補わせる言葉になります。これが危険なサインである理由です。
引き渡しが生む待ち時間と手戻り
部門で仕事を分けると、企画から開発へ、開発から品質保証へ、品質保証から運用へと、仕事の引き渡しが発生します。
引き渡しのたびに、依頼書や仕様書を作成し、背景を説明し、疑問点を確認する必要があります。それでも、仕事の背景や顧客の意図を一緒に考えてきたわけではないため、送り手と受け手の間に共通理解は十分に育っていません。認識のずれが後から見つかり、差し戻しや手戻りが起こります。
さらに、引き渡した仕事がすぐ始まるとは限りません。各部門が稼働率を高め、担当者が複数の仕事を抱えていれば、新しい仕事はキューに入ります。前の部門が期限どおりに仕事を終えても、次の部門の手が空くまで待たなければなりません。
各部門の作業時間を合計すると数日でも、顧客へ届くまでには数週間かかる。その差を生んでいるのは、作業の遅さではなく、部門間にある待ち時間と引き渡しの無駄です。
会議や連絡を増やすだけでは、引き渡しそのものはなくなりません。
ワンチームとは、構造を変えること
必要なのは、分断された部門同士を上手に連携させることではなく、顧客価値を端から端まで届けられるワンチームをつくることです。
ワンチームとは、全社員を一つの巨大なチームにすることでも、部門をすべて廃止することでもありません。特定の顧客やプロダクトに対して、成果を届けるために必要な専門性、権限、情報を、安定したチームの中へそろえることです。
同じ目標を追い、日常的に一緒に判断し、成果に共同で責任を持つ。その環境では、仕事を部門間で引き渡すのではなく、チーム内で連携して完了させられます。対話を重ねるなかで共通理解が育ち、問題が起きても、組織の境界を越えるための交渉に時間を使わずに済みます。
もちろん、チーム外の専門家や部門との連携が必要になる場面はあります。重要なのは、顧客価値を届けるたびに恒常的な引き渡しと調整が必要な構造にしないことです。
管理職・経営層が見直すべき問い
部門間の問題が起きたとき、管理職・経営層は「どうすればもっと連携してもらえるか」と考える前に、次の問いを持つ必要があります。
顧客へ価値を届けるまでに、仕事は何回引き渡されているか。仕事はどこで、どのくらい待っているか。関係する人々は、同じ成果を目標にしているか。チームには、日常的な判断を完結できる権限と専門性があるか。
これらの問いから見えてくる問題は、現場のコミュニケーション研修や連携の呼びかけだけでは解決できません。組織の境界、目標、評価、権限、仕事の流れを見直す必要があります。
「部門間で密に連携しよう」という言葉が聞こえたら、それを前向きな掛け声だけで終わらせないでください。
なぜ、連携をわざわざ呼びかけなければならないのか。顧客価値を届けるために、私たちは本当に一つのチームになっているのか。
その問いを組織へ向けることが、壁を越える努力から、壁そのものをなくす変革への第一歩になります。