「越境」じゃダメなんですよ。

いきなり強い言い方に聞こえるかもしれません。もちろん、異なる領域に踏み込む姿勢そのものを否定したいわけではありません。越境学習や越境人材という概念が、組織の硬直をほぐすきっかけになっていることも事実です。

それでも、組織変革を本気で考えるなら、「越境」という言葉だけでは足りない。私はそう考えています。

「越境」は、境界があることを前提にしている

「言葉尻」と言われるかもしれません。しかし、「越境」というからには、そこには越えるべき「境界」があることが前提になります。

つまり、従来型のサイロが残っていることを前提にした議論だと受け取られる可能性があります。営業、開発、運用、人事、管理部門。あるいは、ビジネス、技術、デザイン、品質保証。それぞれに領域があり、普段は別々に存在し、必要なときだけ誰かが境界を越える。

その構図のままだと、境界そのものは温存されます。越境する人は評価されるかもしれませんが、組織の構造はあまり変わりません。

越境がイベント化すると、日常は変わらない

越境という言葉の裏側には、「本来の場所に戻る」「あくまで自分の領域が中心」というニュアンスが残りがちです。

たとえば、普段は自部門の目標と役割に閉じて働き、研修やワークショップ、交流会のときだけ他部門と関わる。あるいは、特定の越境人材だけが部門間をつなぐ役割を担う。これでは、越境はイベント化します。

イベントとしての越境は刺激になります。しかし、日常的な働き方や意思決定の仕組みにまで浸透しなければ、組織は元の形に戻ります。境界を越えた経験はあっても、境界を前提にした仕事の流れは残り続けるからです。

必要なのは、境界そのものを溶かすこと

本当に変革を起こしたいなら、越境では不十分です。必要なのは、境界そのものを溶かすことです。

部署と部署、専門と専門、役割と役割の間にある見えない壁を前提にしない。境界を越えるのではなく、境界を曖昧にし、時には消し去り、コラボレーションを例外ではなく標準にする。

これは、全員が同じ仕事をするという意味ではありません。専門性を失うことでもありません。顧客価値を届けるために必要な人々が、最初から同じ問題を見て、同じ成果に向かい、日常的に一緒に判断するということです。

混ざり続ける構造をつくる

たとえば、プロダクト開発と営業が企画段階から一緒に議論する。エンジニアが顧客インタビューに参加し、ビジネス側が技術的負債への理解を深める。運用担当がリリース直前に呼ばれるのではなく、設計段階から運用性について一緒に考える。

こうした「混ざり続ける」構造が当たり前になれば、境界は自然と意味を失っていきます。営業から開発へ、開発から運用へと仕事を引き渡すのではなく、最初から一緒に見て、一緒に考え、一緒に学ぶ。そうなると、「越境」という言葉さえ不要になるはずです。

ONE-AGILE®が大切にしているのも、この状態です。チームが一体となって成果を出すには、個人の頑張りだけでは足りません。組織が、混ざり続けられる構造をつくらなければなりません。

専門性を守ることと、境界を守ることは違う

専門性を守ることは大事です。しかし、それと境界を守ることは別問題です。

専門性とは、顧客価値を高めるために発揮されるものです。一方で境界は、ときに専門性を組織の内側へ閉じ込め、他の専門性と結びつくことを妨げます。専門性が強いほど、むしろ他の専門性と混ざることで価値を生み出せるはずです。

越境を目標にするのではなく、境界を気にせず協働できる状態をつくること。

これからの組織づくりは、その発想の転換から始まるのだと思っています。