強いチームを育てる組織開発ガイド 書影 Amazonで見る

「一般的なアジャイルの本ですね」

これは、本書の執筆中にレビューをお願いした、あるベテランのアジャイルコーチの方からいただいた言葉です。

ここで言う「一般的」とは、おそらく「経験者であれば誰もが知っている内容」という意味だったのでしょう。もう少し踏み込めば、「取り立てて目新しい内容ではない」という含意もあったのかもしれません。少なくとも、全面的な賛辞として用いられた言葉ではなかったのだろうと受け止めています。

しかし、この指摘は、ある意味で的を射ています。

本書に書かれている内容は、実際のところ、きわめて「一般的」なものです。ただし、それは「十分な経験を積んだアジャイルコーチにとっては」という前提が付きます。

私はアジャイルコーチを職業としてから10年になりますが、これまでの支援先において、本書で論じたような「チームを育てる組織」や「チームを支援する組織」、あるいはそこを真剣に目指している組織に出会う機会は、決して多くありませんでした。

むしろ現実には、アジャイルになろうともがくチームの取り組みを、組織の側が阻害してしまっている場面を何度も見てきました。さらに言えば、そうした状況からの脱却を支援しようとするアジャイルコーチが、組織にとって都合の悪い存在として扱われることさえあります。

つまり、「アジャイルチームには、それを育て、支援する組織が必要である」という事実は、経験あるアジャイルコーチにとっては一般的な知識であっても、多くの組織にとっては、まだ決して「一般的」ではないのです。

では、なぜそうなっているのでしょうか。

もし、私たちアジャイルコーチにとって「一般的」だと思える知識が、社会や組織の中に十分に行き渡っていないのだとすれば、それは、アジャイルコーチ自身の努力不足でしかありません。

「知っている人は知っている」で済ませてきた結果、アジャイルは多くの現場で、チームの頑張りや開発プロセスの改善だけに閉じ込められてきました。そして組織の側は、自らが変わる必要から目をそらしたまま、「現場がもっとアジャイルになればよい」と考えてきました。

それが、私が本書を書いた理由です。

本書は、アジャイル宣言にある「意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します。環境と支援を与え仕事が無事終わるまで彼らを信頼します。」という一節に正面から向き合い、それを一冊を通じて論じた本です。知る限り、このテーマにここまで焦点を絞った書籍は、国内外を見ても極めて稀ではないかと考えています。

アジャイルは、その華々しい成功事例の背後で、実は大きな組織変革を求めます。アジャイルを単なる「現場の開発手法」や「チームの問題」に矮小化する組織が、アジャイルの本来の価値を得ることはありません。

チームに変化を求めるのであれば、組織もまた変化を引き受ける必要があります。チームに自律を求めるのであれば、組織はその自律を支える環境を整えなければなりません。チームに成果を求めるのであれば、組織はその成果を阻害している構造に向き合わなければなりません。

本書に書いた知識が、本当の意味で「一般的」になること。

それは、単にアジャイルの知識が広まるということではありません。チームだけに変化を押し付けるアジャイルから、組織自身が変わるアジャイルへと、日本の組織が一歩踏み出すことです。

それが、私がこの本に込めた願いであり、日々の活動を通じて実現したいことなのです。