かつて、パソコンのハードディスクは40MB程度でした。が、当時はそれでも画期的でした。

フロッピーディスクを何枚も差し替える必要がなくなる。これで仕事がずいぶん楽になる。そんな期待があったはずです。

ところが、現実はそうなりませんでした。

ハードディスクは、すぐに満杯になりました。

その後、記憶容量は数百MB、数GB、数十GBへと増えていきました。60GBのハードディスクが登場した頃には、「これなら動画も扱える」と期待されたものです。

しかし、容量が増えれば、より大きなデータを扱い始めます。高解像度の画像や動画を保存し、バックアップを取り、過去のデータも消さずに残すようになります。

現在では、40TBのハードディスクを搭載したPCもあるようです。40MBから40TBになれば、その差は約100万倍です。

では、記憶容量が100万倍になった結果、保存するデータは減ったでしょうか。

もちろん、減っていません。

同じことはCPUにも、通信回線にも、AI向けのGPUにも起きています。処理能力が上がれば、その余力を使って、以前はできなかった新しいことを始めます。

効率がよくなったからといって、使用する資源の総量が減るとは限りません。むしろ、使いやすくなることで利用が増え、結果として以前より多くの資源を消費することがあります。

これは、「パーキンソンの法則」としてもよく知られています。

これは、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という法則です。

つまり、仕事を効率化して時間に余裕ができても、その余裕がそのまま休息になるとは限らず、空いた時間には、別の仕事が入り込んでくるということです。

AIによって、3時間かかっていた資料を30分で作れるようになったとします。

その結果、残りの2時間30分を自由に使えるようになるでしょうか。

おそらく、「資料をもう一つ作ろう」「もっと詳しい分析も追加しよう」「これまで手が回らなかった顧客にも提案しよう」という話になります。

AIがメールを書いてくれるなら、メールを書く機会がなくなるのではなく、より多くのメールを送るようになります。AIが資料を作ってくれるなら、資料が不要になるのではなく、これまで以上に多くの資料が作られるようになります。

AIが人間を代替すればするほど、人間に残される仕事が減るとは限りません。

むしろ、AIによって可能になることが増えれば、「できるのだから、やろう」という仕事も増えていきます。これまでコストが高くて諦めていた分析、企画、検証、個別対応が、新しい仕事として次々に加わります。

もちろん、AIによって不要になる作業はあります。しかし、作業が減ることと、人間の仕事が減ることは別です。

問題は、AIで何を速くするかだけではありません。

AIによって生まれた時間を何に使うのか。増え続ける選択肢の中から、何をしないと決めるのか。AIで作れるものをすべて作るのではなく、本当に価値のある仕事をどう選ぶのか。

AI時代に必要になるのは、効率化の能力だけではなく、仕事を増やさないための判断力なのかもしれません。

AIが仕事をしてくれるから、人間は楽になる。

残念ながら、歴史を見る限り、そのような未来はあまり期待できそうにありません。

AIで仕事を速くこなせるようになればなるほど、人間はより多くの仕事を思いつき、より高い成果を求め、空いた時間を新しい仕事で埋めていくでしょう。