「組織でアジャイルをやる」と「アジャイルな組織を作る」は、似ているようで、まったく違うものだと私は考えています。
「組織でアジャイルをやる」とは何か
「組織でアジャイルをやる」とは、組織全体でスクラムやカンバンなどの手法を導入し、スプリントを回したり、スクラムイベントを実施したりすることを指して使われることが多いようです。
もちろん、それ自体に意味がないわけではありません。仕事の進め方を変える入口として、スクラムやカンバンは有効です。
しかし、スクラムイベントを実施しているからといって、その組織がアジャイルであるとは限りません。スプリントを回していても、意思決定が遅く、部門間で仕事が滞留し、メンバーが複数のチームを兼務しているなら、価値はなかなか顧客に届きません。
「アジャイルな組織を作る」とは何か
一方で、「アジャイルな組織を作る」とは、サッカーチームのように、状況に応じて自ら判断し、連携しながら、ボールを効率よくゴールへ運べる組織を作ることです。
試合中、選手はいちいち監督の指示を待ちません。チームの目的と戦い方を理解したうえで、相手や味方の動きを見ながら、その場で判断します。状況は刻々と変わるため、すべてを事前に指示することはできません。
組織も同じです。変化の大きい環境では、現場が目的に基づいて判断できる自律性が必要です。上位者の承認を待たなければ何も決められない組織では、変化に素早く反応することはできません。
走行距離ではなく、ボールの流れを見る
また、選手たちががむしゃらに走り回れば勝てるというものでもありません。大切なのは、スプリント回数や走行距離そのものではなく、いかにボールを滞留させず、効率よくゴールまで運ぶかです。
組織においても同じです。個々人の稼働率を高く保つことが目的ではありません。大事なのは、仕事を滞留させず、なるべく短期間で顧客に価値を届けることです。
オフ・ザ・ボールの動きが勝敗を左右する
ここで重要になるのが、「オフ・ザ・ボール」の動きです。
サッカーでは、ボールを持っている選手だけが試合を動かしているわけではありません。むしろ、ボールを持っていないときの動きこそが、勝敗を左右します。
ボールを持っていない選手は、何もしていないわけではありません。スペースを見つけて走り込み、味方のためにパスコースを作る。相手のスペースを潰し、攻撃の芽を摘む。守備に戻り、仲間を補う。こうした個人の数字には表れにくい動きが、チーム全体の成果を支えています。
ボールを持っていない時に、他の試合へ出るのか
だから、ボールを持っていない選手に向かって、「今ボールを持っていないなら、別の試合に出てこい」と言うことは考えられません。そんなことをすれば、そのチームは一瞬で連携を失います。
ところが、実際の組織では、これに近いことが起きています。
自分の手元に作業がない時間は、「何もしていない」と見なされる。稼働率を上げるために、別のプロジェクトや別のチームへアサインされる。つまり、ボールを持っていない時間に「他の試合」へ出されてしまうのです。
しかし、チームで成果を出すためには、手元の作業がない時間こそ重要です。次に詰まりそうな仕事を助ける。レビューする。相談に乗る。情報を整理する。顧客価値や次の一手について考える。こうした動きは、個人単位の稼働率では測りにくいかもしれませんが、チーム全体のフローを大きく左右します。
必要なのは、チームが機能するための組織設計
アジャイルな組織とは、メンバーを常に忙しくさせる組織ではありません。チームが状況を見て、自分たちで判断し、必要なところへ動ける組織です。
目指すべきなのは、アジャイルのイベントを実施している組織ではありません。自ら判断し、互いに補い合いながら、価値を素早く届けられる組織です。
「組織でアジャイルをやる」だけでは、そこには届きません。
本当に必要なのは、チームがチームとして機能できるように、組織の構造、評価、人の割り当て方、意思決定の仕組みを変えていくことです。
それが、「アジャイルな組織を作る」ということなのだと思います。